再読~~。

うん、やっぱり耕二君の結末は、映画のほうが良かったです。でも、透君は本のほうがいいかな。

東京タワー/江國 香織
¥1,470
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高校生時代から10以上歳の離れた詩史と付き合っている透。透に影響され、旦那有り子供無しの喜美子と付き合う耕二。彼らは大学生。気ままな生活と年上の綺麗な女性との恋愛。恋はするものじゃなくて落ちるもの。

映像の凄さというものを改めて実感しました。そう、うれし、たのしな、脳内変換(笑)。文字を追っていくと、映画の役者さんが私の頭の中で動いてくれるんですよ。それこそ、端役に至るまで、全部。
いやぁ、幸せな時間です。彼らが私のためだけに映画とはちょっと違う「東京タワーアナザーストーリー」を展開するんですから。ま、私の妄想力にかかれば、ね。色々と、負ける気がしないですよ。その妄想力をもってしても、映画の場面が時折フラッシュバックしてきましたね。映像って凄いっ!

江國さんの作品の素晴らしさは、雰囲気にのめり込める、という点につきる。透のような浮世離れした青年を登場させても、一通りのリアリティがあるところも私の好みと合致する。(ここは、一通りが丁度いい。細部に渡るまでのリアリティは小説にはいらないと思うから。あくまで、ありそう、なさそう、の曖昧なラインが心地いい。) 軽妙な文章と的確な表現が、時折痛いほど胸に刺さる。そんなちょっとぴりっとしたスパイスも、素敵だ。
江國さんの本を読むと、甘いプールに浸ってる感覚になる。自分がその甘い水で溺れかけそうになっていた。読み終わるとそのことに気付くのだ。口の中に水が浸食してきて苦しいはずなのに、どうしてか、それは、ひどく甘い。
気になる点は多々ある。詩史のそれ、どうなの、っていう台詞とか。透の陶酔加減とか。由利ちゃんの諦めが早すぎる、とか・・・。だけど、それに違和感を覚えながらも、冷たく甘い雰囲気に、飲みこまれたいと思わせる引力は鮮烈だ。その引力に、私は逆らえない。
自己陶酔するのは酷く簡単なことで、特に自分の作り出した世界に入りこむことは難しくない。でも、他者の作り出す世界に耽溺できるか、は、その世界がどのくらい魅力的なのかによる。江國さんは、私をいとも簡単にその世界に引きずり込んでくれる。それが物語を読む喜びになる。
本を一度捲れば、私は、江國さんの、冷たい手に誘われて、甘いプールの底に身を沈めることになる。そう、否応無しに。